最高裁判所第一小法廷 昭和26年(オ)23号 判決
上告代理人弁護士富田政儀、同天利新次郎の上告理由第一点について。
しかし、市議会における議員の除名議決は、特にこれに基ずく執行機関の処分をまたず直にその議員をして議員たる地位を失わしめる法律効果を生ぜしめる行為であるから、一種の行政処分と解すべく、この場合の市議会は行政訴訟特例法一条にいわゆる行政庁に該当すると解するを相当とする。そして、地方自治法一三五条所定の懲罰の四種類中のいずれの懲罰を科すべきかは所論のように全然市議会の自由裁量に属するものといえないばかりでなく議員の議会において使用した言葉が同一三二条所定の「無礼の言葉」に該当するか否かは、法律解釈の問題であつて、これが解釈を誤りこれに基き議員を除名したような場合には、その前提が違法であるから、除名そのものもまた違法たるを免れないのである。されば、被上告人の上告議会における言動を無礼の言葉を使用したものに該当するとして被上告人を除名した上告議会の本件議決を違法であると主張してこれが取消を求める本訴請求は、憲法五八条二項に基く除名の取消訴訟とは異り、前記特例法一、二条所定の違法な処分の取消訴訟であるといわなければならない。それ故、本論旨は、その理由がない。
同第二点について。
しかし、原判決は、単に所論摘示のごとく判示したのではなく、次のごとく判示したのである。すなわち原判決は、議員が果たしてどんな発言をしたかを確定することは事実問題であるが、その認定された発言が地方自治法一三二条の無礼の言葉を使用したことに該当するかどうかは裁判所が客観的に判断すべき法律問題であつて、議会の主観的判断に拘束されない旨を判示したのである。そして、原判決の右の説示は正当であつて、当裁判所においてもこれを是認すべきものと考える。されば、所論は、原判示に副わない非難であつて採るを得ない。
同第三点について。
しかし、原判決の所論摘示の判示は、地方自治法一三二条だけの適用についての判示であつて、所論のごとき議会の議員に対する懲罰理由全般についての説示ではない。されば、後者を以て前者のみに関する原判示を非難する所論は、原判示に副わないものであつて、採ることができない。また、本件懲罰議決が被上告人の議場内における発言が無礼であるとの理由のみで除名したものであることは、当事者間に争のないところであつて、それ故、原判決は、被上告人の議場外の行為に多大の反省を要する点があるからといつてこれを被上告人の議会においてした発言に結び付けてその発言を無礼の言葉であると解することは当を失すると説示したのである。されば、原判決には所論のような理由齟齬は認められない。
同第四点について。
しかし、所論摘示の原判決の説示は、地方自治法一三二条にいう無礼の言葉を解するのに社交上の儀礼を標準としてはならないことを説明した判示の一部であつて、その全部の判示を通読すればその判示はすべて正当として肯認することができる。そして、所論のごとき悪徳議員が必要な発言に籍口して為す発言は議員の発言として必要なものといえないから、原判決のごとく解しても何等不都合はない。論旨はそれ故その理由がない。
同第五点について。
しかし、所論摘示の原判決の判示は、原判決が成立に争のない第一〇号証その他原判示の争のない事実等から認定した事実に基く判断であつて、その認定には反経験則その他の違法は認められない。されば、所論は、原判決が適法に為した事実の認定を非難するに帰し採用し難い。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判官 斎藤悠輔 真野毅 岩松三郎)
上告理由
第一点、原判決においては「本訴はその請求自体に徴し行政処分が違法処分であることを理由として取消を求める訴であるから適法である」と判示しているが、
上告人札幌市議会の為した除名議決は地方自治法及ぴ札幌市議会の会議規則に準拠し便宜裁量によつて処置したものであるから、これは自由裁量が当か不当かの問題あるのみで、従つて行政事件訴訟特例法の所謂違法処分として争訟の目的とはならないものである。
即ち上告人の如き普通地方公共団体の議会は内部にあつて当該団体の行政意思を議決することを本来の任務とし、例外として外部に対して直接に法関係の決定を為すことがある。その一は議員の被選挙権の有無を決定する場合で(地方自治法第百二十七条)他の一は地方自治法及び会議規則に違背した議員に対して懲罰を科する議決をする場合である。(同法第百三十四条、第百三十五条)
この内前者は議員の被選挙資格を法規に照し其の有無を決定する純然たる外部に対して行う処分であり、其の処分に不服がある者は地方自治法第百二十七条第四項の準用する同法第百十八条第五項の規定によつて裁判所へ出訴し得ることを規定せられているが、後者の議員に対する懲罰は議会内部の自治自粛に任ぜられ、其の処置に不服があつても裁判所へ出訴する規定が無い、而して裁判所法第三条第一項には「一切の法律上の争訟を裁判し」と規定せられているが、訴訟手続は法律の規定の存することを要し、本件については現行法上出訴することを認めた規定は無いので、本訴の提起は不適法である。
尚行政事件訴訟特例法第一条に「違法な処分」については行政訴訟をすることを認められているが、これは法規処分に対する場合であつて、本件の如く行政事件中でも自由裁量に属し、且便宜裁量のものは法規処分で無いから、右特例法第一条の「違法な処分」に該当しないものと思料する。即ち議会がその構成員である議員に対する懲罰はこれを行つてもよし、又行はなくてもよい所謂便宜的自由裁量の一種に属し、議事運用上における政治的裁量を伴うものであつて、この便宜的自由裁量に対しては当、不当の異議はできても、違法であるから取消せと云う法律上の争訟はできない。即ち特例法第一条中の「違法な処分」中には右の如き便宜裁量は含まないものと解すべく、昭和二十六年三月二十九日衆議院において議員川上貫一に対して為した除名の如き其の適例である。
本件の除名決議については法令の手続上何等違法の無いことは訴訟記録に徴し明らかで且つ此の点は被上告人も異議を述べていない。従つて本訴の場合、法律が出訴権を認めていない事項に対し出訴したものであるから不適法として却下せらるべきもので、原判決はこの点において違法であり、本訴は却下を免かれないものと思料する。
第二点、原判決は「裁判所は当事者間に争のある限り、証拠によつてこれを認定するものであるが、その認定にかかる発言が果して同条(地方自治法第百三十二条)にいう無礼の言葉を使用したことに該当するかどうかは法律問題であつて、その発言が客観的に判断して無礼の言葉であると解しえない限り、たとえ議会がこれを主観的に無礼の言葉であると解して懲罰を科したとしても、右懲罰処分は違法の処分として取消を免れないものである」と判示しているが、地方自治法第百三十二条に規定せられた「無礼の言葉」とは、裁判所に提出せられた紙上の字句章句のみによつて客観的に判断せらるべきものではなく、出席した多数議員及び議事参与員(市長、助役等の如き)の受けた主観的感情を第一要件とし、発言した議場における空気、発言者の動作、議会の為した注意勧告、発言の言葉の内容等の客観的事実を第二要件とし、これ等を綜合して判断せらるべきものであつて、主観はいけない、言葉の意義のみの客観的判断でなければならないと云う限界は無い。
然るに原判決は単にこれを客観的に「無礼の言葉」なりやを判断すべきものであるとの前提的判示をしたことは、事実誤認の違法があり破毀を免れない。
第三点、原判決は「同条(地方自治法第百三十二条)はもつぱら議員の議会における発言のみに依拠してそれが無礼の言葉であるかどうかを判断すべきものであつて、その議員の議会における行動は、その発言の意味を正確につかむためこれを考慮に入れるは格別、その行動自体を斟酌してこれを決するは同条の趣旨に反するものである」と判示しているが、
議会の議員に対する懲罰は、議員としての義務違背を契機として科せられるもので、議員は議場を一歩出れば直ちに其の責任を解放されるものではなく、議場外においても責任が全然無いとは云へない。
地方自治法第百三十七条には招集に応じない場合においては懲罰を科することができることを定められていることから見ても、議場外の作為、不作為について懲罰を科することができるものであり、而して同法第百三十四条第一項には「この法律及び会議規則に違反した議員に対し議決により懲罰を科することができる」と規定せられてあり、この法律の中には勿論其の根本法である憲法も当然包含せられているものと云うべく、憲法第十五条第二項には「すべて公務員は全体の奉仕者であつて一部の奉仕者ではない」ことを宣明している。従つて地方議会の議員も住民全体の奉仕者として誠実に職務を行う義務があり、この義務は単に議場内においてのみ負担し、議場外には一切責任が無いと云う様なことは妥当を欠く見解と云はなければならない。而して本件懲罰は被上告人の議場内における発言が無礼であるとの理由で除名したものであつて、議場外の行為に対し、それを理由として、除名したものではない。ただ無礼な言葉の由つて来たる原因、動機、即ち被上告人が公務員にあるまじき議場外における市政運営の妨害行為及び市議会に対する挑戦的態度は、その用いた言葉の裏付けとなるものであつて、単に字句章句の解釈をしたり、講談師が高座で演技するのとは全く其の趣を異にし、議員発言の言葉の表裏、議場の空気、発言者の動作等は凡て考慮に入れるばかりでなく、証拠法の原則によつて一切の証拠として判断の材料となるものである。(この点は第一審判決理由が正しいと思う)原判決においては、これ等の事実は考慮に入れるは格別であるが斟酌してはならぬと解したことは、地方自治法第百三十二条の解釈を誤り且証拠法の原則に反したものである。
尚原判決は右の「考慮に入れるは格別」と伏線を張つていながら、判決の全般に亘つて何等考慮に入れていないことは右の判示と判決理由全般との間に齟齬がある。
第四点 原判決は「議員の発言が必要な発言である限りたとえその措辞が痛烈であつてこれがために他の議員等の正常な感情を反撥しても、それは議員に許された言論によつて生ずるやむを得ない結果であつて、これをもつて議員は同条にいう無礼の言葉を用いたものと解することはできないのである」と判示しているが、
これは前述の通り、地方自治法第百三十二条の解釈を誤つたものである。何となれば同条に云う無礼とは、発言議員が常軌を逸して非礼の言辞を弄し、多数議員の正常な感情を害し又は侮辱を感じ、或は議会の議事運営を阻害し以つて議会の品位を傷つけた様な場合の其の発言を指すものと解すべきであつて、「必要な発言」なれば如何なる言辞を弄しても無礼にならぬとの解釈は首肯し難いものである。若し原判決の云うが如く、必要な発言は如何に痛烈な悪罵を浴せても無礼にならぬと云うなら、若し悪徳議員が出現して必要な発言に籍口し、議会を紛擾に陥れ議事の促進を妨害する様なことになつたなら、地方自治団体の意思決定は著しく阻害せられる虞なしとしない。
惟ふに地方議会は其の都道府県市区町村の各最高意思機関であり、その運営は理解と奉仕とによつて円滑に行はれなければならない。地方自治法はこの運営を妨げ議会を紛擾に陥れんとする発言者を、無礼の言葉を用ひたるものとし、その議会に戒告、陳謝、出席停止、除名の四種の懲罰権を与へ仍て議事進行の円滑を期せんものとしたものと解すべく、この見解に反する原判決は誤判であり破毀せらるべきものと信ずる。
第五点 原判決は「控訴議会の指摘する諸々の言葉は、その措辞において痛烈ではあるが、被控訴人のこの意見を発表するに必要な程度を超えたものとはいい難く、従つてこれをもつて被控訴人が無礼の言葉を使用したものと解するのは失当であるのを免れない」と判示しているが、
議会における議員発言の限界は截然とした区別は無いが、議案と提案者の説明によつて常識的にわかるものである。議案が明瞭にわかつており可決すべきものときまつているものに対し、ことさらにいやがらせのため故意に質問を為し、又其の質問が挑戦的で議会の品位を傷つけるが如き措辞を用いることは、必要な発言の程度を超えたものと云はねばならぬ。而して之が判定には裁判所へ提出せられた言葉の字句章句のみを如何様に解剖し検討しても、それのみで有礼、無礼の区別を判断することはできない。之が判定にはその議員の議場外における行動に直結する発言であつて、其の発言が議場の空気を混乱し刺激する挙動なり措辞を用ひ、之を聞いていた多数議員が侮辱を受け又は正常な感情を害せられたと感ずる場合は無礼の言葉であると解すべきである。
勿論礼とは仏教や基督教や儒教の教ゆる礼を期待しているものは思はれないが、少なくとも議員が全体の奉仕者としての礼譲と秩序とを守る必要があり、其の団体の意思決定に参与するに必要な発言でなければならぬ議案が即決可決となること全般の空気によつてわかつている本件議案の如きものを、ことさらに挑戦的な質問を為すのみでなく、当該の市議会を侮辱する様な言辞を弄する被上告人は、必要な発言の程度を超えたものと云うべく、原判決は反対に必要な程度を超えたものでないと判示しているのは、事実誤認の甚だしいものであつて此の点も亦破毀せらるべきものと思料する。
以上